『 ペンギン・マター 』
――――――――――――――――――― 6




『――ババさま、ハハさま、ナツ、ユキ。 話さなければいけない事があります。』

 みんなが、こちらを見つめるのがわかった。
「今日の、通信機でのことね?」
 察したハハさまが、静かに箸を置く。 それに習って、ババさまも、子供達もお箸を置いた。
食事を中断して、耳を傾けてくれるという事だ。 私は彼女の問いかけに頷いた。
『そうです。 俺が帯びてきた、任務についてです。 ――本当は、不時着した恋人を探しにきたのではありません。 今まで、みんなに嘘をついていました』
 口を閉ざしたまま、一同が息を飲むのが分かった。 無理もない事だ。
『許されるなら、本当の事を話させて下さい。』
 私はすべてを打ち明けようと心に決めていた。 たとえ許されないことだとしても。 残された時間は、わずかしかないのだ。
緒方一家のみんなは、頷いてくれた。 決心して、私は語りはじめた。



 グィングィン星には、単一の国家がある。
人鳥(グィン)たちの帝国だ。 我々は王家の名をとって、『ペン帝国』と呼んでいる。
このペン帝国には、次代を担う王女がいた。 名前はキューア・ペン。 私や、ペン帝国軍参謀のゴゼット・グイスと、同じ年の冬にお生まれになられた王女だ。
 寒く厳しいグィングィン星で、私達人鳥は古くからの“自然のしきたり”に従って生活を営んできた。
自然の慣わしに従い、自然のままに生きよ、というのが、しきたりの本懐である。 グィンたちは氷の上で家族で暮らし、冬になるとタマゴを暖め、子供たちを幼稚園に預けて親は小魚を取り 海と幼稚園とをせっせと行き来しながら子育てをする。
 先人が培ってきた科学技術を、使うことはしない。 これも、しきたりにより禁じられているのだ。
“科学を使う事が許されるのは、天敵による脅威に対してのみ” という厳しい掟が定められている。
よって、私達の技術は、軍事や武器に関してのみ、著しい成長を遂げる事となった。
それが何故かは、幼稚園でしつこいくらいに聞かされた。
 ――科学は、人鳥らしさを失わせてしまう。 つまり、火を起こす事に慣れれば羽毛が必要なくなってしまうし、機械で簡単に魚を捕ってしまうと、本来の狩りの能力が失われてしまったり、魚を捕りすぎてしまう。 昔の先人鳥たちは、そう考えたのだ。 
 そしてもうひとつ、科学は グィングィン星を滅ぼす危険性がある。 機械文明は自然とは相容れないものだからだ。 鉄を加工するには火を起こす必要がある。 火を起こすには燃料がいる。 燃料を燃やして得られる熱は氷をも溶かす。 氷が融けてしまうと住む場所がなくなる。 
 それらのしきたりは、一本筋が通っているようで、他方では厳しすぎる側面もあった。
 ――例えばこうだ。 食事を取りに海へと出かけていった人鳥の両親が、海の天敵に対して――海を回遊して我々を襲う機会をうかがっている黒い巨大魚や、空を飛ぶカモメに―
光線銃を撃つ事は認められる。
 だが、もしも両親が彼らと闘って敗れた場合は? “それは自然淘汰だ”としきたりは言う。 なによりも優先されるべき鉄の掟なのだ。 仲間が食べられる様を見たら、他の仲間は逃げなくてはいけない。家族が襲われたとしても、例外ではない。 敵に向かって光線銃を撃ち、助け出すことは、認められない。
 両親を失った幼稚園の雛はどうなるか? その子のたどる運命はひとつ。 餓死だ。
飢える子に、他の人鳥はくちばしを差し伸べる事は許されない。 淘汰だからだ。 弱い両親をもつ子もまた弱い。 強きもののみが生き残ることこそ、必然であり、義務であるのだと。 鉄の掟はそう定めていた。

 そのしきたりに、公然と異議を唱えたのが、キューア・ペンだった。 
彼女は、不幸にも両親を失った仲間を、助けようとしたのだ。 まだ稚い、だが心に迫る口調で、彼女は、言った。

《こんなのはまちがっているとおもいます。 かれのいのちをうばうと、ものいわぬしぜんがいったというの? いったい、だれがそれをきいたというの? しきたりとはいったい、だれのことですか?》

 王家のグィンたちは驚愕した。 異端である、と口荒く言うものもいた。
だが、私は絶対に彼女が正しいと思った。 ゴゼットも同じだと言った。
 私たちの星の空に浮かぶ太陽は、私達が生まれるよりずっと以前から、徐々にその活動を弱めつつある。 いずれ太陽が暗くなり、母なる惑星は永遠の冬を迎えるだろう。
その時に、我々が凍えて死ぬのは“自然淘汰”なのか? 天敵には科学で対応する事を認めながら、火を起こす事を禁じて、自然のままに生きよと示す“しきたり”を、私たち3人は信じてはいなかった。
 孤児となった友人を助ける事が、ついに叶わなかった夜、私とゴゼットは決意して、軍に志願した。 科学を唯一行使することのできる、ペン帝国でたった一つの職業だ。
私達は、未来を変える事の出来る力を欲した。

『ナツミ―― 以前俺は、自分達の星の問題を解決するためには、なるべく環境に悪影響なく、目的を達成する発明が必要だと言っただろう』
「うん」
『すまない。 あれは、嘘をついたも同然なんだ。 本心だけど、俺は奇麗事を言った。 俺達は、そうはしなかったんだ。』
 私とゴゼットは、軍の中で科学部の中枢にたどり着き、その技術を学ぶと、しきたりの二つ目をこう読み替えた。
“科学はグィングィン星を滅ぼす危険性がある。” もちろんだ。 だが、それはグィングィン星で科学を行使した場合の話だ。 グィングィン星は危機に瀕している。 だから私達は、“グィングィン星を滅ぼさないために科学の力を利用する”。
――つまるところ、移民先の候補地を探して、他の惑星の侵略をはじめた。 水や空気、資源のある惑星をさがし、そこへ宇宙船で乗り込んで、現地の資源で前線基地を作り、戦艦を作った。 そしてまた次の星へ。 理想の惑星を探して、星の海をずいぶんと行き来した。 だが結局、私達は移民先となる星を見つける事も、自分達以外の知的生命体に出合う事もなかった。
『ナツミ、俺には地球星人を非難する資格なんて本当はないんだ。 この地球でニンゲンたちがやっている事を、俺達は自分達の宇宙でずっとやってきたのだから。 自分達の(せいかつ)さえ無事でいればいい。 他の生き物や自然のことには関心などない。 目的に小さな違いはあっても、手段は同じだ。』
 ナツミは、ぎゅっと唇を結んで、ただ耳を傾けてくれていた。

 自然のしきたりを頑なに守る者達も、他の星を侵略することには異論を唱えなかった。 名も知らぬ惑星を、好き放題に開拓することは咎めない。 ようは、グィングィン星さえ安泰であればいいのだ。 だが、その間もキューア姫は、ずっと母星でしきたりに異を唱え続け、矢面に立ち続けた。
《太陽が冷たくなり、またこの冬も孵る雛が減りました。 それなのにまだ、弱者は“淘汰”と切り捨てるのですか?》
 彼女の問いかけに、女王は応えない。 応える事ができなかった。
 長い時を掛けてわたし達人鳥に染み付いたしきたりは、そう簡単には消え去る事はなかったのだ。
 それでもキューア姫は、暇を見つけてはひとり海へ潜り、魚を捕まえては、両親を失い孤独になった子供たちに分け与えたという。 それは、他の人鳥たちの目には、奇怪な行動に映っただろう。
 彼女の言葉は、しきたりに縛られたものたちの心には響かなかった。
 彼女を異端と考えるものたちにとって、姫様は、さぞや、目障りだったに違いない。
 姫は、あるとき突然にして、私達の――いや、この私の目の前からいなくなった。
 宇宙ボートの操縦訓練の最中、原因不明のトラブルに見舞われ、彼女の船は星の海の遙か彼方へと姿を消した。
トラブルなどではない。 何者かが図りにかけたのだ。
愚かなしきたりを、決して認めようとしないあの人を、ひとりぼっちで、遙か遠いところへ、永遠に追放したのだ。
私は、そう考えた。



 私とゴゼットは、必死に彼女の消息を探した。
宇宙ボートに手を加える事が出来るのは、軍の関係者だけだ。 
周囲の誰も信用できないなかで、私たちはたった二人で、キューア姫を探した。 私達の理想の象徴を、失ってはならなかった。
 姫がいなくなって1年が経ったある日、ゴゼットが、遠く遙か彼方の銀河に、新たな太陽系を見つけ出した。
太陽から三番目に近い青い惑星に、キューア姫は不時着を果たした可能性があるという。
 すぐに無人探査機による調査が行われた。 『地球』と呼ばれているその惑星には、我々とは異なる進化を遂げた知的生命体がいることがわかった。 我々と同じで二足歩行をする生物だが、科学の技術は、我々には遠く及ばない。
後先を考えず自らの星の環境を破壊している、醜く粗暴な人類だという。
そして―――奇しくもその惑星には、我々がずっと追い求めていた海と、空気と、氷の大陸が存在した。

『ゴゼットが立案した作戦はこうです。 地球星人には宇宙戦を行うような技術力はまだない。 まずは母艦一隻で地球の近くまでやってきて、私ひとりが潜入艇に乗って南極大陸に降り、キューア姫の救出を行う。 ――私が救いにやってきたのは、恋人など恐れ多い…本当は、私の仕えるべき主です。 この作戦は隠密裏に行う事となっていたので、初めて目にしたあなた方には、嘘をついてしまいました。 本当にすみません』
 私を見た雪丸が、下唇をつきだして、言った。
「ルル、うそは、ついたらあかんのやで」
『そうだ、ユキ。 俺は悪いことをした。 だがもう嘘はつかない』
一同を見渡し、私は言った。
『作戦にはプランUがあります。 作戦開始から一定時間が過ぎても、私がキューア姫を見つける事が出来なかった場合、姫はニンゲンの手に落ちている可能性が高いと見て、母艦は地球に向けてメッセージを発します』
それは、こういった内容だ。

《南極に不時着した我々の仲間をただちに返しなさい。 さもなくばこの惑星から人類を追放します。 無返答は、抵抗の意思と看做します。》

 それを聞いて、アキさんと幟さんが、顔色を変えた。
「そんな無茶な…ルルちゃんの仲間が、攻めて来るってこと?」
『はい。 そして、この星を我々の移民先として再開発し、その後に姫を探します。 ……私は、そうならない為に、今日、作戦参謀であるゴゼットに、作戦時間の延長を打診しました。 もともと、この作戦はキューア姫の救出作戦だったはずなのです。 …ですが結果は、作戦は変更しないの一点張りでした。 …私達の母艦は、すさまじい火力を持っています。 もし侵略が始まれば、地球の人々は、宇宙から攻撃を行う我々に、なす術なく敗れるでしょう』


 恐らくは。   ――ゴゼットは初めから、これが狙いだったのだ。

 地球を見つけ出した時から、この星を手に入れることを考えていたのだろう。
 キューア姫の宇宙ボートを地球へ向けて跳躍させたのも、無人機の調査結果を、“人類は危険”と書き換えたのも、全ては奴の計画だったのだ。
奴は、彼女の救出を悲願とした私の宇宙ボートも、墜落の危険にさらした。
そうすれば姫は永遠に見つからず、軍は地球侵略の口実が得られる。
 最初から、それが目的だったに違いない。 そうだと仮定すれば、全ての事に納得がいった。
私は、今日、親友との会話の中で見出した真実に、怒りで目の前が歪んで見えた。
地球人は、脅威ではない。 命を救ってくれた人もいる。 私はこの星で過ごして、地球星人の一家に学ぶところも多くあった。 友好的に事を運ぶ事だって、不可能と決め付けるのはまだ早い。
それなのにゴゼットは――私は、ずっと幼き頃より一番の仲間だと思っていた親友に、裏切られてしまった。
《キューア姫を託すことができるのは、ルル――お前だけだ。 なんとしても成功させてくれ》
 そう言った言葉は、嘘だったのか。 ゴゼット。


 その時、ふすまがガタガタと音を立て、キィーンという金切り音が周囲に響いた。
外を見れば、大型の揚陸艇が、藍色の空から、物置小屋のすぐ隣に着陸するところだった。 真っ暗だった田んぼ道に突如現れた船は、明るい光を放ちながら降りてきた。 自動操縦を意味する緑の灯火が点いている。
 大きな音と風を吹き上げながら着陸する様に、遠くはなれた隣家の人々も、何事かと家の内から出てくるのが見える。
(他のニンゲンにも気づかれている。 …どれだけ時間に猶予があるだろう。 あの船にも、またゴゼットの仕掛けがないとは限らない。 船が落ちては、元も子もないんだ。 急いで点検しなくては…)
 よりにもよって大型船を送ってきたのは、妨害する意図もあっての事に違いない。
私は、心の中の親友に向かって、思い切り汚い言葉で罵倒したい気持ちになった。

『私は、出来るだけ早く船を点検し、母艦に向けて出発します。 帰艦するなとの命令が出ていますが、侵略戦争を起こさないためには、司令官に直接会って、作戦を変更してもらうほか、ありません』
「お姫さまはどうするの、ルル」
 幟さんが、困惑したような表情で言った。
 キューア姫が南極大陸に不時着したというのは、ゴゼットの情報だ。
今となっては、それすら嘘であったのかもしれない。
それ以前に、宇宙ボートに不慣れな姫が、無事に不時着できたという保証はない。
残りわずかな時間を、南極大陸で彼女を探す時間に充てる事は、できない。
 私は頷いて、精一杯の笑顔を浮かべた。
『大丈夫、ハハさま。 侵略をくい止めたら、その後でゆっくりと探しにいきます。 ――今は、時間がありません。 すぐに、作業に取り掛かります』


☆ ☆ ☆


「ロズウェル事件の時もわれわれが担当した。 現場指揮は任せてもらおう」
 謎の飛行物体の情報を受けてから2時間後、CIAのエージェントは既に現場に到着していた。
本国から受けた指令は、『地球外生命体及び それと接触した人物を全員拘束せよ』というものだ。
 日本の自衛隊を動員して、すでに山間の農村は封鎖状態にある。 大勢を避難させる必要もなかったので、マスコミには感づかれていない。
 別組織の人員が、指揮官に向かって握手を差し出した。
「こちらも、貴方方にお任せするよう命令を受けています。 ですがあまり手荒な事は控えたほうが良いのではないですかね。 後々、処理が面倒です。」
「なあに、気にするな。 先の戦争から50年、この国は、いまや行儀良く言われたとおりにすることには、もう慣れっこなのさ。 こんな任務が政府公認で行われているのが良い証拠だ」
 屋根にアンテナを張り巡らせたトレーラー内の基地で、灰色の防護服を着た人々が、声をひそめて筋書きを話し合う。
「周囲の放射線量、異常ありません」
「さあて それじゃ、ピアノで交信でもしてみるか? それとも、挨拶して人差し指でも触れあわせてみるのが良いかな」
 この状況を楽しみつつある局員のジョークを、現場指揮をとるエージェントは冷たく一笑して、ホルスターから抜いたオートマチック拳銃のセーフティを解除した。
「見てみろ、あの宇宙船。 前についている突起物、砲身に見えないか? おふざけで友愛ごっこした所で、後から「脅威でした」と分かったのでは遅い。 まずは無力化し、身柄を拘束してからコンタクトすればいいのさ。 奴らも宇宙船を飛ばすような知恵を持っているなら、領空侵犯って言葉くらいわかるだろう。」
 即席の部隊の指揮官は、静かに部下たちに号令をかけた。
「こういう任務は、少数精鋭が良い。 二人、俺について来い。 シギント連中は情報収集と記録を欠かすな。 ヤツが仲間を呼ばんとも限らん。異変があれば知らせろ」
 無線機をオンにして、防護服のヘルメットを被る。
「しかし、この国の夏は蒸し暑いな」
「なあに、すぐに終わらせて帰るさ」
 扉が開かれ、3人は闇夜に降り立った。





 アキさんには、何が起きたのか分からなかった。
インターフォンが鳴り表に出ると、口許を押さえられて玄関先に引き倒され、結束バンドで両手を後ろ手に縛られた。
「残るは3人。 女と子供だけだ。 宇宙人(E.T.)に人質にとられる前に確保しろ」
「了解」
アキは瞬時に理解した。 アメリカ英語のやりとりに含まれるE.T.という言葉。 彼らは、ルルを捕まえにきたのだ。
「ルル、逃げや!!」
 大声を上げようとして、その口をふさがれる。
じたばたともがくと、こめかみに冷たい金属を押し付けられ、地を這うような「フリーズ」という声がした。

 宇宙船の整備を終えたルルは、すぐに異変に気がついた。
予測していた事態ではあるが、ここまで早く追っ手がつくとは、この星の武人も馬鹿にはできない。
彼は冷蔵庫から持ってきた残りのアジを宇宙船のタンクに入れると、動力炉を始動させた。
(アキさんを助けなければ。)
すぐ傍にいた、夏海、雪丸、幟の三人に向かって、ルルは言った。
「ババさまが、私を追ってきた地球人に捕まりました。 銃を持った敵が3人、こちらにむかっています。」
 夏海と雪丸は何事かわからずにキョトンとしている。
幟は神妙な表情で頷いた。
「――ルルちゃん、あなた、もう行きなさい。私はお義母さんと、ここに残るわ」
 ルルは、幟の真意を理解していた。 自分達が一緒にいれば、足手まといになると彼女は思ったのだろう。
だが、それでは忌むべき“しきたり”と同じだ。
『それは出来ません。 ババさまを助ける』
 ルルは、幟の申し出を拒否した。
『強者にやぶれる弱者を、ただ見過ごすわけにはいかない。 あなたたちは、俺を家族だと、認めてくれた人たちだ。 俺のせいで、捕まったのに』
「いい、ルルちゃん、よく聞いて」
 がっしりと、幟は力強くルルのなで肩を掴んだ。 揺れる瞳の中に、ルルは強い意志の光を見た。
「私バカだから、あなたの言う事をちゃんと理解できていないかもしれないけれど、それでも、本当なら地球の大ピンチだってことくらい、わかるわ。 それをルルちゃんが命がけでなんとかしようとしてる事もね。 今 飛ばなきゃ、捕まったらもう飛べない。 侵略戦争を止めることができるのは、あなただけなのでしょう。 地球のみんなのために、行って下さい。」
 幟はそう言うと、ふわりと笑って、子供達の肩を抱いた。
「その代わり、ひとつだけルルちゃんにお願い。 この子たちを連れて行って、どこか安全な場所で降ろしてあげて」
「お母さん…」
 夏海と雪丸は、不安げな声を上げた。
ルルは苦悩した。 姉弟を連れて飛ぶのは良い。 だが、いくら平和な国だとは言え、夜中に彼らを、地上の何処かに残して去る事はできない。 一方で、此処に残して、武器を持つニンゲンの傍にも、置いておくわけにはいかない。
「ナツ、ユキ。 ルルちゃんの力になってあげられる?」
 夏海と雪丸は、口をぎゅっと引き結ぶと、目に涙を浮かべ、力強く頷いた。
「ありがとう」
 母親は、ペンギンと、幼い姉弟を、一緒に抱きしめた。
「三人とも、大好きだよ。 また、後でね」

 動力炉、作動確認。 飛翔動作開始。

 キイイン、という金切り音をたてて、揚陸艇はその巨体をゆっくりと地面から持ち上げた。
 後ろ手に縛られた幟は、空へと上って行く宇宙船を眺め、笑顔を浮かべた。
「お義母さんも無事だよ、ルル。 大丈夫。 気をつけて行ってらっしゃい。」
 強い閃光を発した宇宙船は、光の弾となって、大空の彼方へと飛翔した。
 空に向かっておちてゆく流星のような輝きに、幟とアキは、家族の無事の帰還を祈った。
強く強く、祈った。




to be continued.



2012.7.30 Update.

  


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