『 自然選択 』
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 アポトーシスという言葉を知っていますか?
多細胞生物の体を構成する、細胞の死の形のひとつです。
 全体をより良い状態を保つために、あらかじめプログラムされた細胞死の事をそういうのですね。
 例えば、利他的細胞死というものがあって、これはDNAに傷をもっていたり、突然変異を起こしたり、ウィルスに感染した細胞が、他の細胞の為に、自ら死んでいくというものがあります。
 あらかじめプログラムされた細胞死の、身近な例を挙げるとすれば、あなたにも生まれつき備わっている『手』がその良い例といえるでしょう。 元々 私達の『手』は、初めから5本指に分かれて形成されるものではなく、指の間の細胞がアポトーシスを促進されて死滅し、その結果 5本指に分かれた『手』が形成されるのです。
 オタマジャクシが蛙になるために、尻尾を失うのもアポトーシスです。 陸上生活を送る上で、その役目を終えた『尻尾』の細胞が自ら死を選ぶことで、オタマジャクシは蛙になるのですね。

 生命の進化の過程に、このアポトーシスが深く関与している事は、疑いようがありません。
 生命は進化を続けていく中で、環境に応じて様々に変化を続けてきました。
そうして、種がより有利になるように、自らの形態を変化させ、維持させ、今日に至るのです。 変化に応じられないものは、自然と淘汰されてきました。

 病原菌や天災を除けば、『天敵』と呼ぶものをもたない人類にとって、最も重要とされるのは、社会環境の中でより強い子孫を残す事といえるでしょう。
――では現代に生きるヒトの生態系において、優秀な個体の条件とされるのはなんですか?
それは、社会的地位を獲得する為に必要な、明晰な頭脳であったり、身体能力であったり、整った容姿など、という事が出来るでしょうね。


 『草食系』という言葉が一般的な語彙として定着している、現代のこの国では、未婚率の増加が問題とされていますが、本当にこれらは、社会背景に起因する問題なのでしょうか?
その本質は、問題とされている点と異なるのではないかと、私は思うのです。
 何が言いたいか、もうお分かりですね。
これは、ダーウィンとウォレスが唱えた、自然選択説です。
より優秀な個体が生き残るという、たいへん合理的なシステムの、ひとつの結果と言えるのではないでしょうか。 

 ――あるいは、こう考えてみてはどうでしょう。
『人類』という巨大な多細胞生物を構成する、一人一人の細胞が、自らの遺伝子を後世に残すべきか否かという取捨選択の中で、利他的なアポトーシスを選んだのではないかと。
もしも そんな自然選択を、知らずに自分自身のDNAが結論付けてしまったとしたら?
体温すら自ら制御できない私たちが、どうやったら抗うことができるのでしょうね。

 
 

 

2011.07.22 Update.

  


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